
あの夏が飽和する。
まふまふ
毛之毳
あの夏 が飽和 する。
まふまふ
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1
「昨日人を殺したんだ」
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2
君はそう言っていた。
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3
梅雨時ずぶ濡れのまんま、部屋の前で泣いていた。
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4
夏が始まったばかりというのに、君はひどく震えていた。
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5
そんな話で始まる、あの夏の日の記憶だ。
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6
「殺したのは隣の席の、いつも虐めてくるアイツ。
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7
もう嫌になって、肩を突き飛ばして、打ち所が悪かったんだ。
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8
もうここには居られないと思うし、どっか遠いとこで死んでくるよ」
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9
そんな君に僕は言った。
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10
「それじゃ僕も連れてって」
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11
財布を持って、ナイフを持って、
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12
携帯ゲームもかばんに詰めて、
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13
いらないものは全部壊していこう。
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14
あの写真も、あの日記も、
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15
今となっちゃもういらないさ。
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16
人殺しとダメ人間の 君と僕の旅だ。
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17
そして僕らは逃げ出した。 この狭い狭いこの世界から。
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18
家族もクラスの奴らも何もかも 全部捨てて君と二人で。
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19
遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ。
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20
もうこの世界に価値などないよ。
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21
人殺しなんてそこら中 湧いてるじゃんか。
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22
君は何も悪くないよ。 君は何も悪くないよ。
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23
結局僕ら誰にも愛されたことなどなかったんだ。
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24
そんな嫌な共通点で僕らは簡単に信じあってきた。
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25
君の手を握った時、微かな震えも既に無くなっていて。
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26
誰にも縛られないで二人線路の上を歩いた。
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27
金を盗んで、二人で逃げて、どこにも行ける気がしたんだ。
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28
今更怖いものは僕らにはなかったんだ。
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29
額の汗も、落ちたメガネも
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30
「今となっちゃどうでもいいのさ。
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31
あぶれ者の小さな 逃避行の旅だ」
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32
いつか夢見た優しくて、誰にも好かれる主人公なら、
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33
汚くなった僕たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな?
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34
「そんな夢なら捨てたよ、だって現実を見ろよ。
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35
シアワセの四文字なんてなかった、
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36
今までの人生で思い知ったじゃないか。
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37
自分は何も悪くねえと誰もがきっと思ってる」
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38
あてもなく彷徨う蝉の群れに、水も無くなり揺れ出す視界に、
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39
迫り狂う鬼たちの怒号に、バカみたいにはしゃぎあい
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40
ふと君はナイフをとった。
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41
「君が今まで傍にいたからここまでこれたんだ。
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42
だからもういいよ。もういいよ」
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43
「死ぬのは私一人でいいよ」
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44
そして君は首を切った。 まるで何かの映画のワンシーンだ。
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45
白昼夢を見ている気がした。 気づけば僕は捕まって。
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46
君がどこにも見つからなくって。
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47
君だけがどこにもいなくって。
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48
そして時は過ぎていった。 ただ暑い暑い日が過ぎてった。
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49
家族もクラスの奴らもいるのに
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50
なぜか君だけはどこにもいない。
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51
あの夏の日を思い出す。 僕は今も今でも歌ってる。
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52
君をずっと探しているんだ。
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53
君に言いたいことがあるんだ。
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54
九月の終わりにくしゃみして 六月の匂いを繰り返す。
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55
君の笑顔は 君の無邪気さは
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56
頭の中を飽和している。
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57
誰も何も悪くないよ。
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58
君は何も悪くないから
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59
もういいよ。 投げ出してしまおう。
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60
そう言って欲しかったのだろう? なあ?
